東北学院大学 伊鹿倉正司教授が語る「地銀再編」 2023年度は東日本にも本格波及

東北学院大学伊鹿倉 正司教授
東北学院大学 伊鹿倉 正司 教授

本格的な人口減少時代を迎え、低金利が続くなか、経営環境が厳しさを増している地方銀行(以下、地銀)。同一県内の地銀同士にとどまらず、県をまたいだ広域再編も展開されている。

都道府県内に地銀が1行しかないところもある。具体的な事例を言えば、埼玉県、山梨県、石川県、滋賀県、京都府、奈良県、和歌山県、鳥取県の8府県でこれから青森県と長野県も加わることでさらに1県1行時代が進展している。

地銀再編については、「西高東低」の傾向が強いと指摘する、東北学院大学の経済学部経済学科の伊鹿倉 正司(イガクラ マサシ)教授に話を聞いた。

地銀の経営統合は「西高東低」

福岡銀行本店営業部(Wikipedia)
福岡銀行本店営業部(Wikipedia)

――最近の地方銀行の集約化の現状と今後の動向からうかがいます。

伊鹿倉 正司氏(以下、伊鹿倉教授) 一言でいえば「西高東低」です。西日本の方が東日本の経営統合と比較するとかなり進んでいます。福岡銀行と熊本ファミリー銀行の経営統合後に「ふくおかフィナンシャルグループ」が形成され、さらに長崎県の親和銀行(現・十八親和銀行)も完全子会社化し、総資産で地銀グループトップとなったことが象徴的な事例と言えます。

これまでも鹿児島銀行と肥後銀行とが経営統合し、「九州フィナンシャルグループ」が誕生、福岡県の西日本シティ銀行、長崎銀行や西日本信用保証の3者は、「西日本フィナンシャルホールディングス」の傘下に入り、「山口フィナンシャルグループ」は、傘下に山口銀行、北九州銀行、第二地銀のもみじ銀行をおさめています。私の地元は宮崎県ですが、南九州でもこれから地銀の経営統合が進むと見ています。

九州の事例を具体的にあげましたが、関西や愛知でも統合は進んでいます。一方、東北を含めた東日本が一歩統合に出遅れています。今後は、西日本の地銀の経営統合はさらに進むと見ていますが、金融庁としても、オーバーバンキングと言われている東北地方の経営統合が今後どれだけ進んでいくのかについて注目しています。

――西日本の地銀の経営統合が進んだ理由はどこにあるのでしょう。

伊鹿倉教授 経済的に県をまたいだ結びつきが東日本と比較して強いというのが一つあります。地銀の取引先は主に企業ですが、企業間の結びつきがどの程度広範にわたっているのかもポイントになります。また経済も西日本の方が東日本と比較して好調であることも経営統合が進展する理由の一つとして考えられます。

横浜銀が神奈川銀を買収へ

横浜銀行に買収される予定の神奈川銀行本店(Wikipedia)
横浜銀行に買収される予定の神奈川銀行本店(Wikipedia)

――これから東日本の地銀が経営統合の主役になりそうですが。

伊鹿倉教授 横浜銀行が第二地銀の神奈川銀行を買収する方向で進んでいますが、東日本でも経営統合の事例がいくつか上がると想定しています。

青森銀行とみちのく銀行が経営統合し、2025年に合併して青森みちのく銀行になります。ほかにも岩手県には岩手銀行、東北銀行、北日本銀行と地銀が3つもあり、現在の三行体制が継続することは難しいでしょう。どのような組み合わせになるかわかりませんが、今後いずれかの銀行同士の経営統合の可能性も高いと考えられます。また、岩手銀行と秋田銀行は連携関係にありますが、今後、一歩踏み込んだ経営統合もありえます。あと、福島県も岩手県と同様に地銀が3行ありますが、県内貸出金シェアトップ・東邦銀行以外の大東銀行や福島銀行の動向に要注意です。

広域統合の方が合併の効果は大きい

これから岩手県の地銀も統合の可能性も(写真は岩手銀行 Wikipedia)
これから岩手県の地銀も統合の可能性も(写真は岩手銀行 Wikipedia)

――北尾吉孝氏が率いるSBIホールディングスが「第4のメガバン構想」を進めていますが。

伊鹿倉教授 若い方の個人客の支持は一定数集められるのではないでしょうか。その意味では個人向けのメガバンク構想はいい線をついています。ただし法人向けはSBIホールディングスではノウハウをそれほど持っていないことが課題です。

――合併の効果とデメリットについては。

伊鹿倉教授 学術的観点では、同じ県内の地銀が経営統合する効果はさほど大きくはありません。確かに短期的には経費削減という観点では効果はありますが、業務の幅が広がりや貸出金額が伸びるという点では難しいです。むしろ、県をまたぎ支店の重なりのない形の広域統合の方が長い目でみれば経営統合の効果は大きいです。

経営合理化で「支店内支店」の設置

銀行が雑居ビルやオフィスビルの2階以上に出店する事例(Wikipedia)
銀行が雑居ビルやオフィスビルの2階以上に出店する事例(Wikipedia)

――以前、日本創成会議では、2040年には全国896の市区町村が「消滅可能性都市」に該当すると発表しました。これから地銀は本格的に始まる人口減少の影響を受けそうですね。

伊鹿倉教授 地銀だけではなくあらゆる業界が影響を受けることになります。特に東北地方はさらに人口減少が本格化しますから、今後ますます貸出先が減っていくでしょう。そうなると収益の確保が今後一層困難になります。

――地銀に限りませんが銀行の統合により、支店が消えていっていますね。

伊鹿倉教授 消滅した支店の顧客に影響を及ぼしますので、経営合理化とサービス改善を早期に実現する目的から、「支店内支店」を設けています。つまり統合先の支店の中に、旧銀行旧支店の勘定を設けるのです。

将来的には個人客を相手にする支店はかなり減っていくのではないでしょうか。比較的若い世代は銀行の支店には縁がないのです。銀行としても支店を維持するためには経費が必要になります。顧客との接点が失われていくと、その経費を賄えなくなりますから、自然と支店統合へと向かっていきます。

――これから支店はどうなるのでしょうか。

伊鹿倉教授 今、個人も法人も相手にする、すべての銀行業務を行うフルバンキング形式の支店が多いです。それがある分野に特化し、店舗も軽量化する形式になるでしょう。イメージとしては、従来のように単独の建築物に支店を設置するのではなく、アパレル業界などと同様に雑居ビルの中に支店を置くことが増えていきます。

そして今、キャッシュレス時代が本格的に到来しています。これは今までのように銀行も支店を抱える必要性がなくなることを意味します。

これから銀行も支店を統廃合しつつもそれ以上のサービスが必要になります。ChatGPTのような新たなサービスの誕生とともに、どの業界でも労働生産性を高めていくことが求められていきます。

地銀統合は、他産業の統合も促す

――地銀が統合すると、ほかの業界たとえば地域建設業界の統合を促す可能性もあるのでは。

伊鹿倉教授 先ほどの人口減少の話と密接に関係するのですが、市場が縮小していくと金融業界のみならず他の業界も統合されていくと思うのです。

金融業界以外の経営統合がさらなる金融業界の統合を促進し、双方向の影響があると見ています。

最近では中小地場業者の事業承継の問題があります。M&Aという形で他社に買収してもらう方法があり、今後日本の事業を含めた企業数が減少していくことと予測しています。事業体がさまざまな形で整理・統合の方向で進んでいきます。

――どの業態が本格的に縮小していきますでしょうか。

伊鹿倉教授 人口減少の影響を受けやすい業態といえば「小売り」です。金融業と同様に小売りも経営統合し、生き残りを図らなければなりません。

もちろん人口減少の影響を受けないサービスやプロダクトを生み出せれば別ですが、なかなかこれは難しいです。

支店跡地では不動産活用の動きも

仙台の有力地銀・七十七銀行本店(出典: 七十七銀行HP)
仙台の有力地銀・七十七銀行本店(出典: 七十七銀行HP)

――各銀行で統廃合した支店跡地の不動産活用を考えているようですが。

伊鹿倉教授 これは銀行法の改正により、支店跡地の不動産活用が可能になりました。たとえば仙台の地銀・七十七(しちじゅうしち)銀行は、本学の近くに支店があり、建て替えることになりました。下層階が支店店舗で、上層階はマンションになります。これから支店跡地に住宅、商業施設も併設した形の活用が増えていくでしょう。

都市部の支店は人の往来が多い一等地です。土地の価値は高いですから、支店跡地は有力な不動産として活用されていくことが今後の流れになります。つまり、支店跡地などの活用により銀行の収益の多角化は進展していきます。

現在の金融政策が大幅に緩和されたとしても、貸出業務に伴う収益だけでは厳しい。人口を含めた縮小要因で貸出業務は伸びず、逆に下がっていきます。ですから地方銀行も含め、業態転換的な銀行の収益の多角化はこれまで以上に踏み込んで展開することが生き残りをかけた非常に重要なテーマになっていきます。

大ピンチ 外債運用の含み損表面化

――地銀の外国債券運用の実情については。

伊鹿倉教授 地銀の貸出業務が伸び悩んでいる中で、日銀の1999年のゼロ金利政策以降、外国債券の運用を伸ばしています。2008年9月のリーマン・ショックまでは日本の国債運用がメインでしたが、2013年の異次元の金融緩和後は国債では収益が上がりませんから、外国債券の運用に注力するようになりました。

しかし外国債券ですから、為替リスク、海外の金融政策の変更、金利の変動の影響を受けます。そこで想定外の損失を受けている銀行もあります。

特に昨年からの米FRB(連邦準備制度理事会)の金利の引き上げにより、米国債価格が下落していますから、含み損を抱えている地銀がかなりあります。

現段階では積極的に外国債券の運用を増やすことはありません。今年度の決算は来年5~6月にかけて一斉に発表されますが、地銀がどの程度の有価証券の含み損の計上を行うかは注目点です。地銀によって一気に計上するか少しずつ計上するかは色が分かれていくところです。

「顧客目線」に立つことが持続的な経営に

「顧客目線」目線が求められる地銀。写真は秋田銀行(Wikipedia)
「顧客目線」目線が求められる地銀。写真は秋田銀行(Wikipedia)

――若い方と地銀は接点があるのでしょうか。。

伊鹿倉教授 インターネットリテラシーのある若者であれば、たいていの投資商品の購入はネットで完結しますので、まず銀行の窓口で投資商品を購入することはないでしょう。ただ、若いからといって必ずしも金融リテラシーが高いわけではないので、銀行にとって若い方が接点を持つ余地が全くないとはいえません。近年、銀行が学校に行員を派遣して金融経済教育の授業を積極的に行っていますが、様々なライフイベントにおいて銀行が頼りになる存在だと生徒・学生たちに思われれば、将来的な顧客獲得につながるかもしれません。

――上場している地銀の株価の動向については。

伊鹿倉教授 昨年夏以降、一部の地銀株は上昇基調にあります。理由は現在の金融政策の転換への期待です。また、すべての地銀ではありませんが、今後、経営統合が予想され、比較的規模の小さな、地銀株に対して期待感があります。ただしそれは本業が好調だから投資家が地銀株を購入しているわけではなく、あくまで一時的な株価の上昇になります。

――そこで最後の質問ですが持続可能な地銀のありようについてですが。

伊鹿倉教授 多くの議論で一番欠落しているのは「顧客目線」です。これまで地銀側の視点で経営多角化や経営統合を進めてきました。そこで顧客の立場に立ってどのように今後生き残りを図れるかがポイントです。たとえば個人と地銀の接点でいえば住宅ローンが第一に来ますが、単に金利が安いだけではなく、住宅ローンに付随して如何に顧客が魅力的と感じる付加価値を提供できるかが重要です。

東北学院大学 経済学部経済学科 伊鹿倉 正司(イガクラ マサシ)教授

2004年に九州大学大学院経済学府国際経済経営専攻修了後、同年から2005年3月まで九州大学大学院経済学研究院助手を経て、同年4 月から2007年3 月まで東北学院大学経済学部専任講師をつとめ、同年4月から2017年3月に同大学経済学部准教授、2017年4月から現職。分担著書に『現代金融論 新版』や『入門銀行論』(いずれも有斐閣)がある。

東北学院大学:https://www.tohoku-gakuin.ac.jp/faculty/economics/economics/staff/igakura_masashi.html
researchmap:https://researchmap.jp/read0095178