株式投資に関心がある方であれば、「IPO株」に関して情報収集された方も多いだろう。これまで未上場であった企業が、新たに上場することを、IPO(新規株式公開)という。IPO株は上場前に「公募価格」(公開価格)で入手することで投資する。証券会社の配慮により、特別な顧客が入手できるケースもあるとも聞く一方、抽選でもまれに当選することもある。当選などで上場前に入手したIPO株を上場初日で販売すれば確実に儲かるというケースが多いため、「IPO株」への関心が高まっている。
多くの個人投資家が集まる意見交換の場として、「ヤフーファイナンス掲示板」がある。県立広島大学大学院経営管理研究科の高橋陽二准教授は、該当するIPO株で掲示板により多く書き込みがあった場合、上場初日の初値ではほぼ確実に上がることを研究したという。今回は、高橋准教授に「IPO株とネットの書き込みとの関連」について話をうかがった。
リターンが期待できるIPO株に高い関心
――最初にIPOの魅力のお話からお願いします。
高橋 陽二氏(以下、高橋准教授) IPOとは、Initial Public Offeringの略語で、日本語では「新規公開株」や「新規上場株式」などと言われています。限定された株主のみに株式の所有を認めていた未上場会社の株式(未公開株)を、はじめて証券取引所を通して公開します。IPO株は、上場初日では比較的、株価が上がるケースが多いため、公開前に抽選などで株式を取得した場合、公開後の初日に売れば相当のリターンが見込めると期待されています。
――とはいえIPO株を公開前に取得するのは難しいとも聞きます。
高橋准教授 IPO株の10%は抽選になりますが残りの90%は証券会社の裁量で任せる仕組みになります。IPO株の割り当てに関する情報はオープンになっていませんが、IPO株を取得できる、もしくは取得できない方ははっきりと分かれているのではないかとも言われています。
ネット系証券の抽選は大手の証券会社と比較するとフェアに決めているのではないかと思われますが、いずれにしてもIPO株取得についてはややブラックボックスの面があるのは否めません。
すでに上場している個別株は大きな情勢変化がなければ価格の変動は少ないですが、IPO株は評価が定まっていない株式が公開されますから、証券会社が考える価格帯とまったく異なることが当然発生します。そこで値動きが激しくなりリスクもある反面、稼げるケースもあるのです。
証券会社はIPO株の人気度を上場前につかんでいる!?
――IPO株の人気度を測る方法については。
高橋准教授 これはさまざまな方法があります。各証券会社は手元の需要状況により人気度がわかっているはずです。私は今回の取材のテーマとなる、「インターネットの掲示板」によって人気度を測った研究を実施していました。実際、書き込みの内容や多寡により、価格が異なります。私が研究を実施していたのは2000年~2010年代で、その頃から掲示板での書き込み状況でIPO価格に変化があったとがわかっています。その後も追従する研究も多くなされています。結論的には掲示板の書き込みが活発であればあるほどIPO株の初値に大きな影響が出ていたのです。
掲示板での書き込みが多いほどIPO株の期待値が高い
――「インターネットの掲示板」とIPO価格の関係性については。
高橋准教授 今申し上げましたが書き込みが多いほどIPO株に対する期待値(人気度)も高く、価格も上昇することがわかりました。最近では、大量の文章データ(テキストデータ)から有益な情報を取り出す「テキストマイニング」という分析手法もかなり確立されています。そこで投資家の心理・関心・人気度を測る研究が進歩しており、注目度が高ければ公開価格と比較して初値はかなり上がることが明らかになっています。私が研究していた当時はヤフーファイナンス掲示板をもとにデータを取得していました。ヤフーの掲示板は世界中にあり、影響力のある媒体と受け止めていたのです。
ネットの書き込みが投資に与える影響は格段に増えた
――今や株や投資信託に関するテキストデータは膨大な量に上っています。こちらを分析していくと、IPO株に加えて個別株や投資信託の動向もつかめるのではないでしょうか。
高橋准教授 私はヤフーファイナンス掲示板とIPO価格の動向に関する研究は2010年頃でいったん終えています。今もしお話しされた研究であれば、すでに実施されているAIなどを活用した分析の方が精度は高いでしょう。初期研究は、ヤフーファイナンス掲示板でしたが今は投資に関する媒体は多岐にわたりますので、どのように各媒体を取捨選択し活用するのかに関する研究は非常に面白い研究だと思います。
テキストマイニングによる手法をもう少し深堀していくと、各書き込みがどのような内容であるかも注視する必要があります。個人投資家も書き込みを見て腹落ちする方と納得されない方もおり、心理状況はさまざまです。特に株が下がって不安な状況にあるとき、手軽に見れる掲示板を見て、中には安心し、逆により不安が増す方がおり、掲示板やネット、さらにはYouTubeなどの投資系動画が与える影響も以前と比較して上がっているでしょう。
――ヤフーファイナンス掲示板での研究は一段落しましたが、このようなネット系の情報を集約し、それが株式市場に与える影響についての研究は誰かが行ってもいいですね。
高橋准教授 経済系の学識経験者よりも機械学習、AIの研究者の方が研究しやすいのではないでしょうか。テック企業ではすでにそのような研究はされていると思います。
実はヤフーファイナンス掲示板に加えて、IPO株を専門に扱い、個人で運営しているサイトやブログが数多くあります。そこである個人は「このIPO株は上がる、もしくは下がる」という評価を下しているのですが、見ていると結構当たっている場合もあります。その運営主は、株の人気度や、公開している株数の規模感などさまざまな要因を考慮して分析しています。私も面白く読ませてもらっています。
――最近、ネット系・通信系の企業が続々と上場していますね。
高橋准教授 IPO株の初値が上昇傾向であることはみなさん理解されていますから、主幹事証券会社と上場予定の企業が公開価格について厳しく詰めている話もうかがいます。そのため、公開価格が明らかに高い場合は、初値では下落する株式もあります。
IPO株だからといって初日に売れば簡単にリターンが得られるとは限らないケースもあるのです。
IPO株の抽選に当選するのは至難の業
――一方、IPO株はコストパフォーマンスが悪いという意見があります。大手証券会社はIPO株の話の多くは富裕層におりる話があります。一方ネット証券メインの方は、IPO株の応募を行う手間がかかり、抽選から外れる可能性が高いです。つまり手間がかかる割に儲からないという指摘がありました。
高橋准教授 それをコストパフォーマンスが悪いととらえるかは人それぞれだと思います。すでに上場している個別銘柄などで十分なリターンを得ている人にとっては当然手間がかかって面倒だという判断になるでしょう。手間がかかるが確率が高く儲かりたいという人にとってIPO株はそれなりにいいのではないでしょうか。
IPO株は儲かる可能性が高いので新規に口座をあちらこちらにつくり、抽選もほぼマックスで行う方がいるという話は聞いたことがあります。公開前に得たIPO株を初日で販売すれば手間はかかりますがかなりの確率で儲かります。中にはIPO株をほぼ専門に行っている個人投資家もいるとも聞きます。
IPOの制度設計の変更も
――では、IPO投資の課題は?
高橋准教授 今のIPO株の仕組みでいえば、機関投資家が価格帯を決定する一方、実際に売買しているのが個人投資家といういびつな構造です。個人投資家がいろんな意見を言っても最初の機関投資家の価格帯の中で決めるのでギャップが生じます。また日本のIPO株は規模が小さく、個人投資家が約7~8割購入します。これがアメリカのIPO株であれば機関投資家が約7~8割購入します。IPO株に人気が集まると、初値は確かに上昇しますが、その後しだいに下落傾向があります。実は海外でも同様なトレンドですが、日本IPO株は、個人投資家が主な参加者であるため極端な傾向にあります。たとえばアメリカのIPO株の初日に上昇するパーセンテージは約20%ですが、取得するデータの期間にもよりますが、日本のIPO株は、平均的に公開価格の2倍程度まで上昇することがわかっています。
この公開初日に上昇する問題を是正しようと議論がありました。制度が変更され、日本における今後のIPO株価格形成がどのように変わっていくかについて注目しているのです。
県立広島大学 大学院経営管理研究科 高橋 陽二(タカハシ ヨウジ)准教授
2002年3月大阪市立大学(現・大阪公立大学)商学部商学科卒業後、2009年3月神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了(博士(商学))。2009年から2011年3月にかけて岐阜聖徳学園大学経済情報学部専任講師をつとめた後、2011年4月から准教授に昇格。2015年4月から2016年3月の1年間、ハワイ大学マノア校シドラービジネススクール客員研究員をつとめ、岐阜聖徳学園大学に戻った後、2018年4月から現職。
県立広島大学:https://mba.pu-hiroshima.ac.jp/ja/summary/faculty#s=id13
researchmap:https://researchmap.jp/yoji_taka
HP:https://sites.google.com/site/jyakayoji/